「イチローも、夢ノートを書いていた」
そんな話を、どこかで見たことがあるかもしれません。
僕自身も以前、イチローさんが小学生のときに書いた有名な作文を、
「夢を具体的に書けば叶いやすくなる」
という文脈で紹介していました。
けれど、夢ノートを書き始めて15年以上が経った今、改めてこの作文を読み返してみると、少し違うものが見えてきます。
そもそも、イチローさんが書いたものは「夢ノート」ではありません。
小学6年生のときに書いた「僕の夢」という作文です。
そして2025年。51歳になり、アメリカ野球殿堂入りを果たしたイチローさん自身が、約40年前のこの作文について、とても興味深いことを語りました。
この記事では、
・イチローさんは小学生時代に何を書いていたのか
・本当に「夢ノート」と呼べるものなのか
・2025年、本人はその作文をどう振り返ったのか
・夢ノートを15年以上書いてきた僕には、今どう見えるのか
を、確認できる資料とともに読み解いていきます。
結論を先に言えば、僕が今、この作文から学びたいのは、
「夢を具体的に書けば叶う」ということだけではありません。
むしろ、
まだ存在していない未来を書き、その未来へ進むために必要なことと、今の自分がしていることまで一緒に考える。
その姿勢です。
イチローは「夢ノート」を書いていた?

最初に、ここは正確にしておきましょう。
今回取り上げる文章は、イチローさんが「夢ノート」として書いていたものではありません。
愛知県の豊山小学校6年生だった鈴木一朗少年が書いた、「僕の夢」という作文として知られているものです。
致知出版社が紹介している資料でも、「豊山小学校6年2組 鈴木一朗」とされています。
その作文は、こんな言葉から始まります。
「ぼくの夢は、一流のプロ野球選手になることです。」
そして、このあとが面白いのです。
「プロ野球選手になりたい」で終わっていません。
プロになるためにはどうすればいいのか。
今の自分は何をしているのか。
どれくらいの成績を残しているのか。
さらに、プロになったあと何をしたいのか。
未来と現在を行き来するように書かれています。
だから僕は、この作文を「イチローが実践していた夢ノート」と紹介するより、
夢ノートを書く僕たちにとって、とても興味深い「未来を書いた記録」
として読んでみたいと思います。
小学生のイチローは、どんな未来を書いていたのか
現在広く紹介されている作文には、一流のプロ野球選手になるという未来だけでなく、かなり具体的な内容が書かれています。
たとえば、
・中学・高校で全国大会に出て活躍する
・そのためには練習が必要
・小学3年生から年間約360日、激しい練習をしている
・高校卒業後にプロ入りする
・中日ドラゴンズか西武ライオンズを希望する
・ドラフトで入団する
・契約金1億円以上を目標とする
・自分の大会成績を数字で振り返る
・一流選手になったら、お世話になった人を試合へ招待する
といったことです。
ただし、一つ注意しておきたいことがあります。
この作文は長年、多くの書籍やWebサイトで紹介されてきました。
そのため、現在ネット上で「原文」として紹介されている文章を比較すると、漢字とひらがなの違いだけでなく、一部の文章や表現にも違いがあります。
たとえば、「夏」とする資料と「秋」とする資料があったり、「投手と打撃」と「投手か打撃」のような違いが見られたりします。
そのため本記事では、ネット上の一つの全文を「これが完全な原文です」と断定するのではなく、複数の資料で確認できる内容を中心に見ていきます。
大切なのは、一字一句の違いよりも、作文全体に流れている考え方です。
そこには、僕が今読むと気になるポイントが5つあります。

イチローの作文から学ぶ「未来を書く」5つのヒント
1.まだ存在していない未来を、言葉にしている
最初は、とてもシンプルです。
「ぼくの夢は、一流のプロ野球選手になることです。」
まだプロ野球選手ではない小学生が、自分の未来について書いています。
今から見れば「本当にプロになったイチローの作文」ですが、書いた時点では、もちろん未来のことです。
ここを忘れたくありません。
結果を知っている僕たちは、どうしても、
「やっぱり夢を書いたから叶ったんだ」
と、現在から過去を見てしまいます。
でも、作文を書いている少年に未来の結果は分かりません。
まだ存在していない未来を、
「自分はこうなりたい」
と先に言葉にしていた。
夢ノートを書くときも、まずはここからでいいのだと思います。
叶うかどうかを証明できなくてもいい。
今の自分が、どんな未来へ行ってみたいのか。
それを一度、消えない形にしておく。
それが「未来を書く」最初の一歩です。
2.「そのためには?」を考えている
僕が今回、作文を読み直して特に面白いと思ったのがここです。
一流のプロ野球選手になりたい。
その直後に、
「そのためには、中学、高校と全国大会に出て、活躍しなければなりません。」
と続きます。
さらに、
「活躍できるようになるためには練習が必要です。」
と続く。
つまり、
プロ野球選手になる
で終わらず、
そのためには?
と、一段ずつ現在へ近づいているのです。
これは、今の僕が夢ノートを書くときにも大切にしていることです。
たとえば、「本を出版したい」と書いたとします。
そこで終わってもいい。
でも、少し余裕があれば、「そのためには?」と書いてみる。
テーマを考える。
誰に届けたいか考える。
目次を作る。
最初の1ページを書いてみる。
未来が少しずつ、今日の自分へ近づいてきます。
夢を小さくするのではありません。
大きな未来と、今いる場所の間に道を作っていく。
イチローさんの作文には、すでにその発想が見えます。
3.未来だけでなく「今やっていること」も書いている
ここが、僕はこの作文の一番面白いところだと思っています。
「プロ野球選手になるために練習します」
ではありません。
すでに練習しているのです。
作文では、小学3年生から年間約360日、激しい練習をしていると書かれています。
さらに大会での本塁打数や打率など、自分がそれまでに残した成績まで振り返っています。
つまり文章の中で、
未来
↓
必要なこと
↓
現在の行動
↓
現在地
↓
もう一度、未来
と行き来している。
以前の僕は、この作文の「夢が具体的であること」に強く注目していました。
今はむしろ、
未来だけを書いていないこと
の方が気になります。
夢ノートも同じです。
未来だけを書く日があっていい。
行動を書く日があっていい。
実際にやったことを書く日があっていい。
「思っていたのと違った」と書き直す日があってもいい。
未来と現在を行ったり来たりしながら書いていく。
僕が今「夢ノ記述術」と呼んでいるものにも、かなり近い感覚です。
4.「なれる」という自信の前に、積み重ねがある
イチローさんの作文で、よく注目される言葉があります。
「必ずプロ野球選手になれると思います」という趣旨の部分です。
ここだけ取り出すと、
強く信じれば夢は叶う
という話にも見えます。
僕自身、昔ならそう読んでいたかもしれません。
でも、作文を順番に読むと印象が変わります。
その前には、自分がどれだけ練習してきたかが書かれている。
さらに後半には、大会での自分の成績も書かれています。
つまり、
「なれると信じた」
だけではありません。
少なくとも少年イチロー自身の中では、
「これだけやってきた」
という根拠があったのでしょう。
ここは、とても大切だと思います。
夢ノートに、
「私は絶対にできる」
と書かなければいけないわけではありません。
自信がないなら、無理に自信のある言葉を書く必要もない。
むしろ、
「その未来のために、今の僕は何をしているだろう?」
と考えてみる。
まだ何もしていないなら、
「今日できることは何だろう?」
と一つだけ考えてみる。
未来への確信を無理に作るより、未来と現在の間に小さな橋を一本ずつ架けていく。
今の僕には、その方が自然に思えます。
5.夢の中に「自分以外の人」がいる
作文の最後には、もう一つ印象的な未来があります。
一流選手になって試合に出られるようになったら、お世話になった人に招待券を配り、応援してもらいたい。
そんな趣旨の夢です。
これは、
「他人のための夢を書けば叶いやすくなる」
という法則ではありません。
僕が面白いと思うのは、
未来を考えたとき、その景色の中に誰がいるのか
ということです。
夢というと、
収入。
仕事。
家。
旅行。
達成したいこと。
そんな「自分が手に入れるもの」に意識が向きやすい。
でも未来をもう少し広く描いてみると、
誰とそこにいたいのか。
誰に喜んでもらいたいのか。
誰とその景色を見たいのか。
そんなものも出てきます。
夢ノートに書く未来は、自分一人だけの世界でなくてもいい。
これは、イチローさんの作文から借りられる、もう一つの視点だと思います。
51歳のイチローは「今なら夢ではなく目標と書く」と語った
そして2025年7月27日。
イチローさんは、アメリカ野球殿堂入りのスピーチで、小学生時代の作文について自ら振り返りました。
その中で、
“I would have used the word goal instead of dream.”
と語っています。
今の知識であの作文を書き直せるなら、dreamではなくgoalという言葉を使う、というのです。
さらに、
“Dreaming is fun, but goals are difficult and challenging.”
「夢を見ることは楽しい。でも目標は難しく、挑戦を伴う」と話しています。
そして、ただ「やりたい」と言うだけでは十分ではなく、本気なら、
達成するために何が必要なのかを、はっきり考える必要がある
という趣旨の言葉を続けています。
この言葉を知ってから、もう一度小学生時代の作文を読むと、不思議な感じがします。
少年イチローは「夢」と書いています。
でも、そのすぐあとに、
「そのためには?」
と考えている。
さらに、
そのために今、自分は何をしているのか
まで書いている。
51歳のイチローさんが「今なら目標と書く」と語った、その考え方を、小学生の作文の中ですでに実践していたようにも見えるのです。
もちろん、これは僕なりの読み方です。
でも、約40年を隔てて本人自身があの作文を読み直したことは、この有名な文章を考えるうえで、とても大切な資料だと思います。

イチローは「夢」を否定したわけではない
ここは誤解したくないところです。
「夢より目標が大事」
という単純な話ではありません。
イチローさんは、夢は必ずしも現実的ではない一方、目標は「どうやって到達するか」を深く考えることで可能なものになり得る、という趣旨で語っています。
つまり僕には、
夢を持つな
ではなく、
その未来を本当に目指すなら、「そのためには?」まで考えてみよう
という話に聞こえます。
そしてこれは、僕が15年以上夢ノートを書いてきて感じていることとも重なります。
夢は、最初から目標でなくてもいい。
「こんなことができたらいいな」
くらいでもいい。
今すぐ行動できなくてもいい。
でも、その中に「本当に行ってみたい未来」が見つかったとき、
そのためには?
と考えてみる。
すると、夢だったものが少しずつ、自分の選択や行動とつながり始めます。
「書いたからプロ野球選手になれた」のか?
ここで、一つ立ち止まっておきたいと思います。
イチローさんは、小学生のときにプロ野球選手になる未来を書きました。
そして実際にプロ野球選手になりました。
さらに日本だけでなく、メジャーリーグでも歴史的なキャリアを築き、2025年にはアジア出身選手として初めてアメリカ野球殿堂入りを果たしました。
では、
作文に書いたから、夢が叶ったのでしょうか。
そこまでは分かりません。
作文を書いたことと、その後の成功との因果関係を、この一例だけから証明することはできません。
むしろ作文そのものに、膨大な練習をしていたことが書かれています。
2025年の殿堂入りスピーチでもイチローさんは、準備を大切にしてきたこと、小さなことを一貫して積み重ねることについて語っています。
だから僕は今、この作文を、
「夢を書けば叶う証拠」
として紹介したいとは思いません。
それでも、この作文には大きな価値があると思っています。
なぜなら、
まだ存在していない未来について、これほど真剣に考え、それを言葉として残していたからです。
書いた未来より、さらに先へ行くこともある
もう一つ、2025年のスピーチで僕が好きなところがあります。
イチローさんは、アメリカ野球殿堂入りについて、
“Going into the Baseball Hall of Fame was not my goal.”
殿堂入りは自分の目標ではなかった、と語っています。
2001年に初めてクーパーズタウンを訪れるまで、その存在すら知らなかったそうです。
それでも51歳になった彼は、殿堂入りの壇上に立っていました。
そして、その場所にいることを「fantastic dream」と表現しています。
これもまた、僕には興味深く感じられます。
小学生の作文には、
プロ野球選手になる。
希望する球団。
契約金。
お世話になった人を試合へ招待する。
いくつもの未来が書かれていました。
でも、
アメリカ野球殿堂入り
は書かれていません。
そもそも、当時の少年イチローには想像することさえ難しかった未来です。
夢ノートを書いていると、ときどき似たことがあります。
書いた通りになることもある。
少し違う形になることもある。
途中で望むものが変わることもある。
そして、書いたときには想像していなかった場所へ進むこともある。
だから僕は、夢ノートを「未来との契約書」だとは考えていません。
未来を書くことは、未来を固定することではない。
今の自分から見える未来を、ひとまずそこに残してみる。
そして進みながら、また次の未来を考える。
それでいいのだと思います。
ストーリー「イチローみたいな夢がありません」

「でも…」
作文を読み終えたうみが、ノートを閉じずに言った。
「私、こんなにはっきりした夢がないです」
「うん」
「プロ野球選手になる、とか。そういう大きな夢」
しいは、手にしていた紅茶を置いて少し、考えた。
「別に、イチローさんと同じような夢を書かなくていいんじゃない?」
「いいんですか?」
「僕らが真似できるのは、結果じゃないからね」
「結果?」
「プロ野球選手になることでも、殿堂入りすることでもない。自分の未来について、一度ちゃんと考えてみること。それなら僕らにもできる」
うみは、もう一度ノートを開いた。
「じゃあ……今の私が、ちょっとやってみたいことでも?」
「そのくらいからでいいと思うよ」
うみがペンを手に取る。
そのペン先がゆっくりと動き始めた。
イチローと同じ夢ではなく、自分の未来を書いてみる

イチローさんの作文を読んで、
「自分も壮大な夢を書かなければ」
と思う必要はありません。
僕がこの作文から借りたいのは、もっと小さなことです。
まず、
「自分は、これからどうしたい?」
と書いてみる。
何か一つ浮かんだら、
「そのためには?」
と、もう一行書いてみる。
そして余裕があれば、
「今の自分は、その未来に向けて何をしている?」
と考えてみる。
何もしていなくても大丈夫です。
そこから、
「じゃあ今日、何ならできる?」
と考えることもできます。
夢を書く。
未来について考える。
今の自分を見る。
少し動いてみる。
そして、また書く。
約40年前、小学生だったイチローさんが残した作文を読み返して、僕が今いちばん心に残るのは、この未来と現在の往復です。
夢を書いたから、未来が決まるわけではありません。
でも、書かなければ考えなかった未来について、考え始めることはできる。
そして、ときにはその先に、
書いたときには想像さえしていなかった未来が待っているのかもしれません。
夢ノートを実際に書いてみたい方へ
この記事では、イチローさんの作文を通して「未来を書く」という行為を見てきました。
では、自分の夢ノートには何を、どう書けばいいのでしょうか。
SeaCretでは、僕が15年以上夢ノートを書き続けてきた経験をもとに、
「望む未来を書く → できる行動を書く → 動いて、またノートに戻る」
という3ステップでまとめています。
→ 夢ノートの書き方|15年以上続けて分かった、夢を行動につなげる3ステップ

大きな夢がなくても大丈夫です。
まずは、今の自分が少し気になっている未来を、一つだけ書いてみてください。
参考資料・出典
本記事では、イチローさんの作文について複数資料を照合し、2025年の本人による振り返りについてはMLB公式資料を中心に確認しました。
- MLB公式|Ichiro headlines HOF ceremony with poignancy and humor(2025年7月27日)
- MLB公式|Ichiro Suzuki becomes first Asian-born MLB player in Hall of Fame
- MLB公式|Ichiro elected to Hall of Fame
- 致知出版社|イチローが小学校6年生の作文で書いた「夢」
※イチローさんの小学生時代の作文は、書籍・Webサイトなどで長年紹介されており、現在流通している文章には一部表記や文言の違いがあります。本記事では、特定のWeb掲載文を「完全な原文」と断定せず、複数資料で確認できる内容を中心に扱っています。


